脅迫罪が適用になるネットの誹謗中傷事例とは
ネット掲示板では、誹謗中傷のみならず、、人を名指しして脅迫する書き込みも見られることがあります。たとえば、氏名、住所を特定して「この男を殺してほしい」、「この女をレイプしてほしい」などと書き込んだ場合などです。
このようなケースでは、書き込みを行った人物は脅迫罪に問われることになります。実際に殺そうとしたかどうか、レイプしようとしたかどうかは、関係ありません。面白半分で書き込んだいたずらが脅迫罪という犯罪になるのです。
誹謗中傷が脅迫罪として刑事事件で訴えられる条件
刑法では「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」(第222条)とされています。
個人の「生命、身体、自由、名誉又は財産」に関して脅迫した場合は、脅迫罪に問われるのです。
尚、脅迫罪に未遂処罰規定はありませんから、脅迫未遂は処罰されないことになっています。したがって、脅迫の対象となった相手が、実際にその書き込みを認識し、被害届や告訴状を提出してから、実際に警察が動き出し、刑事事件として成立します。
ネット上の脅迫的な誹謗中傷の事件化傾向
近年、生命、身体の安全を脅かすような書き込みについて、警察は積極的に捜査し、容疑者を逮捕するケースが増えています。名誉棄損、侮辱と違って親告罪※ではないため、第三者がネットで書き込みを見つけて警察に通報した時点から、警察は捜査を開始できます。
また、ネット掲示板への書き込みはもちろんのこと、口頭や、文書、メールでも犯罪が成立する点に注意が必要です。不特定多数の掲示板でなく、1人の相手に送っても犯罪となるのです。
文書やメールなどの場合は、それらが相手に届き、相手が読んだ時点で既遂(犯罪が成立する)となります。郵送中のトラブルやメールサーバーの不調で相手に届かないような場合は、処罰されません。
※親告罪・・・被害を受けた側からの告訴がなければ検察が起訴できない犯罪のこと
ネットの誹謗中傷が脅迫罪になった事例
過去の事例として、ネット掲示板上で起きた事件で、京都市内で開かれた演奏会で演奏した自作曲を、顔見知りの主婦に批判されたと思い込み、ネット掲示板に主婦の住所・実名と「殺して欲しい……」という投稿をして書類送検されたピアノ演奏家の事件(99年)があります。このケースの場合、主婦はネット掲示板の存在を警察から知らされるまで知らなかったといいます。しかし警察から知らされた後、不安になりおびえた状態になったことから、警察では、実害は無かったものの「脅迫罪」が成立すると判断し書類送検しました。
ほかにも女性を名指し(住所・氏名・電話番号)して「この女をレイプしてもらいたい」と書き込んだ無職男性による脅迫事件や、東京都内にある自衛隊員募集案内所の主任広報官の男性を名指しして「この広報官を殺したい。コロシを依頼します。やってくれた方に1000万円を進呈します」との文章を書き込んで逮捕された脅迫事件などがあります。
一口アドバイス:匿名で書いたから大丈夫は噓
皆さんは『スマイリーキクチ中傷被害事件』をご存知でしょうか。
これは、お笑いタレントのスマイリーキクチさん(37)が開設したブログに誹謗中傷が殺到し、スマイリーキクチさんが殺人事件の犯人だとする事実無根の書き込みをしたとして、大阪府高槻市の大学職員(45)ら4人を名誉棄損容疑で、また危害を加えることをほのめかした2人を脅迫容疑で東京地検に書類送検された事件です。
ブログ炎上で6人が立件され、名誉棄損容疑に、「死ね」と匿名で書き込み脅した2人は脅迫罪に問われました。
脅迫容疑の2人は、第三者が悪意の書き込みを閲覧できなくなってからも、本人を脅す投稿をした点が立件対象とされ、「ブログ炎上」を巡って投稿者が集団立件された日本初の事件となりました。匿名で自由な書き込みができることに乗じて「表現の自由」を逸脱するネット暴力に対し、これは大きな警鐘を鳴らす事件となりました。
この事件が注目を集めたのは、ネット中傷、脅迫をした6人が一度に立件されたことです。(当初20人弱が捜査対象になりましたが、ブログの閲覧制限期間外の投稿者を除外したため書類送検の対象者が減少しました)。これほど大量の検挙に至ったのは初めてのケースでした。
この事件ではブログ炎上が話題になりましたが、実はそれ以前の2000年頃から匿名掲示板2ちゃんねるで、スマイリーキクチさんは女子高生コンクリート詰め殺人事件に関与しているなどと噓の情報を流され、10年近くに及ぶ執拗な誹謗中傷に晒されていました。警察としてはこうした経緯も踏まえ、一罰百戒の意味も込めて捜査をしたと考えられます
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