誹謗中傷を受けたら
インターネットのたった1つの書き込みが、企業に甚大な悪影響を与えてしまうことが今や珍しくなくなってきてしまいました。
書き込みから不信感が広まることで、売上や株価が落ちたり、社内にも良くない空気が蔓延して士気が下がってしまうなどの被害は深刻です。
SNSやスマートフォンの普及に伴い、ネットで情報が回るスピードはますます早くなる一方で、風が吹けば桶屋が儲かるような話と笑い飛ばせない時代になってきました。
風評や誹謗中傷となる書き込みに対して「劇的な効き目」を求めるのであれば、「いかに根絶やしにするか」が鍵となってきます。
書き込まれた「場」を運営する企業に削除を依頼したり、プロバイダーに情報開示を求める裁判を起こすことがそれにあたります。
早く書き込みそのものを削除することは確かに効果があります。
しかし一筋縄ではいかないのが現状です。
ブログの削除依頼の場合は「運営から削除依頼が来た」という記事が新たに書かれてしまい、炎上の火種になることがあります。
掲示板の削除であればその掲示板にいつもいる人たちを相手に「情報が操作されようとしている」と怒りを買い、やはり別のスレッドが立ってしまう可能性があります。
また、所謂「魚拓」と呼ばれるコピーアンドペーストが行われたり、まとめサイトなど別のメディアに紹介されてしまったり、Twitterで広く拡散されてしまったりすると、イタチごっこに陥ってしまい、こうなるとすべてを追うことが不可能になってしまいます。
最終的には当事者たちだけのイタチごっこでは終わらず、雑誌や新聞、テレビなどのマスメディアに取り上げられればもっと多くの人たちの目に晒されることになってしまい、
「事実がどうであれ、何か揉め事を起こしている嫌な感じがする企業」
というイメージが植え付けられてしまうことになります。
では、それらすべてを黙らせることができそうな方法――「裁判」で決着をつけるのはどうでしょうか。
裁判はリスキー
裁判はニュースとして取り上げられやすく、世間の注目度も高まるため大変目立ちます。
勝訴して判決の内容が誰もが納得できる形であればイメージが回復することも考えられますが、敗訴すれば逆に火種を大きくしてしまいかねない諸刃の剣です。
最近あった例では、くら寿司で有名な「くらコーポレーション」が「無添加と言うのがイカサマくさい」とネットの掲示板に書き込んだ人物の情報開示を求めましたが敗訴してしまいました。
〈参考〉
http://www.sankei.com/affairs/news/170412/afr1704120027-n1.html
http://toyokeizai.net/articles/-/168111
https://www.j-cast.com/2017/04/17295818.html?ly=cm
不運にも最初の書き込みの内容が食品添加物に関する話題だったため、そもそも健康に関する問題は誰もが興味を持ちやすく、且つ「添加物は悪である」「ある程度の添加物は必要である」など食品添加物については曖昧な問題が多いためにさらに人々の議論に火がつきやすいトピックだったことも災いしたように思います。
「くら寿司はおいしい」「安くておいしいなら添加物が使用されていてもかまわない」というコメントも見受けられますが、ほとんどの人たちはくら寿司が添加物を使っていようといまいと関係なく、ただ議論したいだけの人たちをも引き寄せてしまいました。
また、最も良くなかったのが「この程度の小さな書き込みに噛みつくくらいだから、もしかしたら本当にやましいことをしているのではないか」と人々に思わせてしまったことです。
絶対に負けない内容だと思う前にもう一度冷静に考えて
くら寿司側の声明を読むと、本当に真剣に回転寿司事業と向き合ってきたからこそ許せないという気持ちが痛切に伝わってきます。
確かに最初の書き込みが行われたのは投資家も見るような株の情報交換を行うのが目的である掲示板でした。
今までの企業努力を踏みにじるような書き方が許せないばかりか、株価への影響を懸念したくらコーポレーションの気持ちを考えると気の毒に思います。
とは言え、くら寿司は回転寿司業界の中でも成長率が華々しく、人気も高まっていました。
「もっと冷静になって無視していれば、よくあるネットの書き込みの1つとして忘れ去られていったのではないか。それに対してわざわざ本気でキレるということは……」と人々に邪推させてしまったのは、紛れもなくくらコーポレーション自身が引き起こしたミスであったと言わざるを得ません。
例えばこれが公式Twitterに正面から挑む形のメンションであれば話は違ったかもしれません。
正面から堂々と来られた上に、多くのフォロワーの目につくような状況であれば、無視するわけにはいきませんから何かしらの声明を出さなければ、より事態は悪化した可能性があります。
しかし、今回はユーザー数も他のSNSと比べて低い場所に書き込まれた、一個人の意見であり、言論の自由が勝ってしまう程度の内容でした。
にも関わらず、結果として自分たちで火種を大きくし「敗訴」という形で大きな爆発を起こしてしまい、ネガティブイメージを広く拡散してしまいました。
たとえくら寿司にやましいことが何もないのだとしても、立ち回り方がうまくなかったことで「逆に何か後ろめたいことがあるのでは?」という印象がついてしまったことは非常に残念です。
裁判の前にやるべきこと
誹謗中傷をされたとき、戦う相手は書き込みをした人物にはなりません。
まず裁判で争点となるのは「言論の自由」です。
言論の自由では擁護できないほど、他人の権利を侵害し、名誉を傷つけることは当然違法になりますが、「そこまでされたのだ」ということを証明することはなかなか容易ではありません。
難しいことではありますが「これは本当に違法な書き込みなのだろうか」と客観的な視点を持って検討に検討を重ね、傷をつけられた証拠を徹底的に用意して臨むことが非常に重要です。
裁判で敗訴することで、逆に元々の書き込みを知らなかった人たちの目にも止まることになってしまい返って悪目立ちしてしまうと、信頼を回復するのに莫大な時間がかかります。
その間に被る不利益と裁判をするエネルギーを天秤にかけたとき、本当にそれは釣り合うものでしょうか?
風評・誹謗中傷に負けない「空気」づくり
では、先の例のような書き込みがあっても放置しておけるような「空気」はどうしたら作れるのでしょうか。
答えはとてもシンプルです。
公式サイトや店舗、メールマガジンやSNSで普段から顧客の知りたい情報をたくさん公開し、ファンをたくさんつくること。
顧客から固定ファンになってもらうためには、商品やサービスの品質向上の他に、昨今ではSNS等を利用して情報を発信し、また、思わず写真を撮りたくなるような商品を開発したり、キャンペーンを打つ等ファン自身に参加してもらう状況を作り出すことが有効です。
BtoBの場合は採用ページを充実させ、社内の様子を積極的に発信することでポジティブな印象を与えることができます。
特にBtoCの企業は「風評・誹謗中傷の書き込みの方がおかしい」「公式はすでにこう書いてある」と言われることが普通になるくらい顧客とコミュニケーションがとれていることが理想です。
一朝一夕でできることではありませんが、日々のコツコツとした情報発信が風評・誹謗中傷の最大の予防となります。
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