会社にとって、情報流出を防ぐためには、大変に心強い法律が、不正競争防止法です。しかし法律で守られるためには、会社自身も情報管理に責任を負わなければなりません。権利を主張するなら、義務も負うのですよ、と法律は定めています。法律の世界は難しく感じますが、至って常識的なバランスの上に立って制度設計されています。
それでは、不正競争防止法で保護を受ける「営業秘密」とは何でしょうか。
先の事件(『企業の信用失墜と情報漏えい(2)~秘密情報はどうやって決まるのか~』)で取りあげた企業秘密は、パチンコ機器販売会社の「在庫」や「取引先」が秘密情報に該当しました。「え? 機密って技術情報のような高度なものじゃないの?」と思っている人が結構多いのですが、それは間違いです。
何が企業秘密に当たるのか?
第一は、顧客情報です。仕入先リストなどリスト化されデータベースになっているような企業情報も該当します。顧客情報は重要な経営資源であり、自社で長年かけて蓄え育ててきたもので、他社に知られると相当な不利益を蒙ります。しかし、こうした情報が営業秘密に該当すると思っていない経営者や現場の従業員も少なくなく、管理がずさんであるケースが多いのが現状です。また顧客情報は個人情報に該当する場合があるため、社外へ流出すれば個人情報の漏えい事件としてマスコミで取り上げられるリスクがあり、二重に厳重な管理が必須であるといえます。
第二は、取引情報です。たとえば取引条件の内容、製造原価、営業経費、在庫管理状況などです。顧客に販売する単価や数量といった情報ではなく、販売価格を構成する原価情報や経費情報、取引数量などの情報がこれに該当します。つまり公然と知られていない営業秘密の情報で、他社に知られると製品やサービスの競争力に打撃を受けるものという点がポイントになるわけです。
第三は、製造・管理・保守に関する技術的手法、経営手法などです。たとえば製品を生み出す工程の中で、ある手順と調合のバランスで製品の独自性が生み出されているような技術情報などがこれに該当します。
第四は、図面、パース類です。設計・図面・パースなどの、眼にみえる可視データ類が該当します。特許権や意匠権など工業所有権として登録しないものでも、管理がしっかりしていれば、営業秘密として不正競争防止法で保護対象となります。
一口アドバイス(1)「掲示板、ブログ、ツイッターに企業秘密を書いたら刑事事件に」
近年の法改正で、「インターネット上のBBS(掲示板)やブログ、SNSに自社の営業秘密を書込むことにより損害を加える行為」も処罰の対象になりました。リストラや意に反して会社を辞めさせられたことで、腹立ちまぎれに書き込んだりしたら、大変なことになります。誹謗中傷での名誉棄損、侮辱罪より、はるかに重い刑が科されることになります。もちろん、民事での損害賠償は別なので、軽い気持ちで書き込んだりしないことです。2ちゃんねるの「ちくり裏事情板」など覗くと、会社の見積もり、製造原価の話など、平気で書き込まれているから、恐ろしい話です。書きこんだ本人は、こうした事実を知らないのだと思います。
ツイッターのつぶやきはブログと異なり、文語体(書き言葉)でなくて口語体(話し言葉)です。考えて書くというより、話してしまう感覚ですから、ついしゃべってしまった、という感じで書きやすい傾向があります。文語体なら「構成をこうして」「この次にこの話を持ってきて」と考えて書くので、見直し作業が発生しますが、ツイッターではその場のノリでつい書きっ放しになってしまいがちです。つぶやいてしまったことが会社の機密に当たることを後で知った、などと後悔することがないように、ツイッターでは職場での話などは書かないようにした方が良いでしょう。
一口アドバイス(2)「パソコンの消去忘れ、転職先で企業秘密を使ったら刑事事件に」
今回の法改正で「消去すべき記録を消去せずかつ消去したと仮装した場合は、営業秘密侵害罪に該当する」ことになりました。たとえば、退職するときに「私の保有するパソコン等から営業秘密データはすべて消去しました」という誓約書を書かされることが増えていると思います。そのような誓約書を提出したあとで、実際に当該データを隠して消去していなかった場合、使用するかしないかに拘わらず、処罰対象になる、という点に気をつけて下さい。
また、消去を隠していなくても、不注意で顧客データを消し忘れて転職し、その後パソコンを開いたら消し忘れた顧客データが出てきたので、それを使って営業したというケースでも、処罰される可能性は高いです。営業で使わなくても、ウィニー、シェアの暴露ウィルスに感染、情報がネットに流出すれば、間違いなく民事責任(損害賠償)は問われます。いずれにしても、誓約書を提出したら、会社関係のデータを全て完全消去しておくことです。
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