炎上マーケティングとは
炎上マーケティングとは、インターネットウェブサイト上で、あえて不適切な表現をすることで多くの批判や非難を浴びることで「炎上」状態を作り出し、注目を集めることで広告宣伝効果を高めようとする手法です。
炎上とは一般的には決して好ましいことではありません。
しかし、わざと世の中に不快感を与えて炎上させることを手段とする人がいるのです。
正確な言葉の由来は不明ですが、個人的には元々はブロガーの間で言われていた印象があります。
自分は言いたいことを言っただけなのに、意図せずしてインターネット上で顔も見たことがない不特定多数の人から批判され、時には心無い言葉で罵倒されることもある炎上。
そんな危険性を含んだ炎上をわざと起こしたいという考えは一見奇妙なことのようにも思えます。
しかし、炎上によってブログ記事へのアクセスが増えることに目をつけた人がいました。
記事に広告のリンクを設置しておくことで、アクセスによって収入が入るというアフィリエイトという仕組みがあります。
この仕組を利用し、収入を増やすためにわざと炎上させるようになった人がいたのです。
このような人にとっては、炎上は狙い通りなので批判的なコメントをいくらぶつけられても傷ついたりしませんし、時間や労力もさほどかからないのでむしろ得をしているというのがポイントです。
もちろん、怒りや悲しみといった他人の感情を闇雲に煽ることは道徳的に正しい行為とは言えません。
そこで「正攻法で潔く勝負することを諦めたから、非道徳的な炎上行為でしか注目を集められないのだろう」という皮肉を込めて「マーケティング」という言葉がつけられるようになったのではないでしょうか。
しかし、上記のような姑息な炎上ばかりが炎上マーケティングというわけではありません。
中には本当に優秀なマーケッターの戦略によって成功を収めた例もあります。
炎上マーケティングの成功例
炎上マーケティングの成功例としてWikipediaにも掲載されているのが、2010年にルーマニアでチョコレートメーカーが起こした騒動です。
メーカーはパッケージにルーマニアの国旗がデザインに施されている「ROM」というチョコレートを製造しています。
非常に歴史あるお菓子だそうですが、若者の間では「ダサい」という印象が広まっていたことから、売り上げが低迷していました。
そこでメーカーは、思い切ってパッケージをアメリカの国旗に変更すると発表したのです。
若者たちにとって「クール」の象徴がアメリカ文化であることを逆手にとった形でした。
それが国民の愛国心に火をつけ、多くの人の反感を買い、大炎上に発展。
Webサイトだけでなく店頭キャンペーンやテレビCMまで放映していたため、話題は瞬く間に広告の枠に収まらなくなり、最終的にはニュース番組でも取り上げられ議論の的になったというのですから、生半可な状況ではなかったでしょう。
しかし後日、ROMはすぐにパッケージを元のルーマニアに国旗デザインに戻し、再びWebサイトやテレビCMによってパッケージの変更はジョークであり「ルーマニア人の愛国心の再発見」を『(国民)みんなで喜びましょう』と伝えました。
結果、「ROM」の売り上げはV字回復を果たしただけにとどまらず、カンヌ国際広告祭の2部門でグランプリも獲得したとのことです。
<参考:AdGang>
http://adgang.jp/2011/06/8336.html
歓迎される炎上とは
当然ですが、わざとらしさが見え透いていたり、何度も炎上を繰り返している場合は嫌われてしまいます。
ルーマニアの例のように確固たる信念があった上で、強烈なインパクトを持ち、誰も不幸にしないハッピーなサプライズ感を演出することに成功できれば、その信念=強烈なブランドイメージを世の中に広く深く浸透させることができますが、そう簡単に一筋縄ではいかないのが実情です。
2017年5月に「炎上」したと話題になった、こちらの紙おむつ「ムーニー」のCMはご存知でしょうか。
直後から子育てや炎上についての議論が起こる度にムーニーのCMが引き合いに出されるようになり、5月下旬現在もいまだに火中と言える状況です。
しかしメーカーであるユニ・チャーム株式会社はCMを取り下げていませんし、謝罪も特に公表していません。
「理想の子育てと現実との違いに悩む母親たちが多いため、動画でリアルな現実を描くことで応援したいという強い思いを込めました」
「ワンオペ育児については推奨しているわけでは決してありません」
「大切な赤ちゃんに心豊かにすくすく育ってほしい、と願う気持ちに寄り添って、応援していきたいという思いだけでした」
そのうえで、動画についてはこのように話している。
「さまざまなご意見をいただいていますが、動画を削除する予定はありません。父親の育児参加や周りの人のサポートが進むよう、多くの方に動画を見ていただきたいです」
<引用:BuzzFeed Japan>
https://www.buzzfeed.com/jp/akikokobayashi/one-ope?utm_term=.xf1NMNaAMV#.kcaoGoj1GW
炎上は想定の範囲内?長期的な視点を持って
今回の炎上は、ある程度は想定の範囲内だったのでしょう。
話題になった当初から現在まで中には好意的な受け止め方をする人もいましたし、このコメントの通り、「周りのサポートが進むよう」全国でたくさん議論が湧き起こり、「多くの方に動画を見ていただきたい」という狙いは達成されています。
このコメントによって「応援にはとても見えなかった」という意見も噴出していますが、人々の記憶に社名を刻むという点においては相当な宣伝効果があったことは間違いありません。
そして次のCMは、間違いなく今まで以上に注目が集まることが約束されたも同然の状況です。
これは逆に大きなチャンスになり得ます。一度きりの炎上ですべてが終わるとは限りません。
起こしてしまった炎上に嘆くことよりも、そのあとどのようなアクションを起こし、どのようにブランドイメージを世間に広めるべきか、次の一手を考えることの方が非常に重要です。
ブランドイメージに傷がついてユニ・チャームは残念だったと思われるかもしれませんが、それは短期的な目で見た場合の話。
長期的な経営の視点、マーケティングの視点で見れば変わってきます。マーケティングとしての宣伝効果、売上への波及効果、それは炎上後、もう少し時間が経たないとわかりません。
強い信念を持って発信したことであれば、そこに共感した人が集まるようになる可能性は充分あります。
毒舌系タレントが好まれるのと同様に、世の中に対して「これはおかしいんじゃないか?」と疑問を投げかけるようなものに反発する人もいるかもしれませんが、共感する人も少なからずいるものです。
多くの人に満遍なく支持されることを目指すのであれば、批判が集まるようなコンテンツをつくるというリスクをとるべきではありませんが、万が一批判が殺到した場合でも最終的には熱烈なファンを獲得できれば良いと考えるのであればエッジの利いたコンテンツをつくるのも良いでしょう。
ご想像の通り、SNSやメディアをコントロールしたり、予測をすることは容易ではないため、積極的におすすめできる手法ではありませんが、尖っていることにブランド価値があると考えている企業・商品・サービスであれば、あえて世の中の議論を巻き起こしそうなコンテンツをつくることにチャレンジしてみるのも良いかもしれません。
予期せぬ炎上をプラスに転じさせるには
これらのように、最初からネットやマスメディアで大きく議論を巻き起こすことを想定して戦略的に仕掛けた場合には炎上=成功となります。
しかし予想外にコンテンツが制作側の手を離れて独り歩きしてしまった場合は、なんとか事態を収束させなければなりません。
しかもその状況を「炎上した」と捉えて恐れて消極的な行動をとるか、「自分たちの主張が広く認知されるチャンス」と捉えて積極的な行動をとるかという決断はごく短期間で行うことを迫られます。
ネット炎上の場合は必ずしも「沈黙は金」とは限りません。
長期間、沈黙していると「やはりやましいことがあるのではないか」「優柔不断で弱々しい」という印象を与えてしまいます。
日頃から何が起きても瞬時に対応できるよう、自社はどういうプライドを持って事業を展開しているかを瞬時に説明できる力、こういう場合はどういう対応をするべきかリスク管理をする力をつけておく必要があります。
世に送り出すものに対して強い信念があれば、炎上は恐れるべき事態ではなく、チャンスになることもあるでしょう。
予期しなかった炎上をプラスに転じることができるかどうかは、自社に筋を通せる信念があるかにかかっているのかもしれません。
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