ネット風評被害とは
定義
一般的に、「風評被害」とは次のように定義されます。
「根拠のない噂のために受ける被害」(デジタル大辞泉)
「事故や事件の後、根拠のない噂や憶測などで発生する経済的被害」(三省堂大辞林)
つまり、一般的には「事実ではない」ないしは「事実が歪められた」情報の拡散による経済被害を指すことが多いです。
ネット風評被害は、もう一つの特徴、ネットならではの特徴があります。
ネットサービスは世界中のありとあらゆる情報を瞬時に整理し、取り出すことができる利点がある一方で、事実ではない情報、事実ではあるものの本来ならば重要でない些末な情報が、大きくフューチャーされて独り歩きしてしまうことがあります。
その情報が事実であるないにかかわらず、その情報にインパクトがあり、人々の興味を引き付ける内容であればあるほど、その拡散スピードが増してしまうところが最大の特徴です。
そして、一旦拡散した風評は、何年も、場合によっては何十年も、ネット上の「真実」として残り続けてしまうのです。
この点が、ネット風評被害の解決を困難なものとしています。
歴史
2008年~:スマイリーキクチさんへの悪質なネット風評被害事件
1999年頃から2ちゃんねる(2ch)掲示板などでお笑いタレントのスマイリーキクチさんが過去の殺人事件の犯人であると吹聴され、個人への誹謗中傷などで10年間被害を受けてきました。2008年、キクチさんは刑事告訴したことを受け、警察が「スマイリーキクチはコンクリ事件と無関係」と発表したことにより、キクチさんへの誹謗中傷も終息した。
2010年~:最高裁がKDDIに発信者情報開示を命令
2007年、神奈川県の私立学校の理事長が、2ちゃんねる(2ch)に自身について誹謗中傷する書き込みがあったとして、 プロバイダーのKDDIに権利侵害と発信者情報開示、損害賠償支払いを求めて東京地裁に提訴。3年の歳月をかけ、最高裁まで上告され、2010年に書き込んだ人物の情報開示請求が認められました。
2011年~:東日本大震災・福島第一原子力発電所事故を原因とする風評被害
2011年3月11日に発生した東日本大震災から福島第一原子力発電所事故における原子力災害の被災地域を中心として、放射性物質による食品・農林水産物の出荷制限などの直接的な影響に加え、原子力災害による影響を受けた地域とのイメージから生じる風評において農林水産業、観光業等の地域産業への影響が続いています。
「風評」とは、人が「今後起こりうるかもしれない」という漠然とした不安を持っているときに広まりがちな、根拠の無い噂のことです。現代はインターネットやチェーンメールといった情報伝達の手段が、その広がりに拍車をかけています。
統計データ:ネット風評被害が法人に与える悪影響
ネット上の風評被害が法人に与える影響には大きく分けて下記3点があげられます。
(2)商品ブランドの低下による、売り上げの激減
(3)銀行融資、株主への悪影響(企業の信用度低下)
いずれも深刻な被害となりえるポイントですが、とりわけ被害の深刻さを痛感してきたのが(1)の採用への影響です。
(1)「内定辞退率の増加」
ネット上の書き込みについては、若年層になればなるほど敏感になるという傾向が顕著です。とりわけ新卒学生は、企業の評判に敏感であるようです。
実際、日経ビジネスの新卒学生に対するアンケートでは、実に9割以上の学生が、ネット上でブラック企業と呼ばれているような会社への志望をやめる、もしくは志望度が下がると答えた、という下記のようなデータもあります。
また、採用については、求人市場の動向も見逃せません。 新卒採用が売り手市場である時期であればあるほど、内定辞退率は上がります。
(2)「売上減少」
売上の減少については、ネット上の風評によってどれだけ被害があり、対策を行うことでどれだけそれが回復するかを可視化するのは大変難しいです。
しかし、ブログや口コミサイト、SNSの出現によって、ネット上で簡単に企業や商品、サービスについて書く事が出来るようになりました。実際に事実が全くなかったとしても、ネット上に風評が広まってしまえばそれが事実として扱われてしまい売上に大きなダメージを与えることがあります。
先ほどのグラフと同様、日経ビジネスの新卒学生に対するアンケートで、「ネット上でブラック企業と呼ばれるなど、評判の悪い企業の製品やサービスを利用したいと思いますか?」という質問に6割強が「利用したくない」と回答したデータもあります。
(3)「企業信用度低下」
例えば、会社が倒産しそうだとの風説が匿名掲示板に書き込まれ、それがじわじわと拡散していった例を考えてみましょう。
実際に過去、こんな例がありました。
起業以来12年にわたり、健全経営を続けてきたシステム会社に、匿名掲示板上で倒産の風評が書き込まれたことがありました。
経営陣も早期にその事実を把握したのですが、真実ではないという一点から、放置するという経営判断をその法人は下されたのです。
その結果、何が起こったのでしょうか?倒産の噂は、やがて既成事実としてネット上を駆け巡り、2年後に実際の経営破たんに追い込まれてしまったのでした。
事実無根の風評が、放置することでやがて現実となってしまうことがあります。