コンプライアンスとは
「コンプライアンス」の辞書的な定義
一般的に、「コンプライアンス」とは次のように定義されます。
①(要求・命令などへの)承諾。追従。
②法令遵守。特に,企業活動において社会規範に反することなく,公正・公平に業務遂行することをいう。
③服薬遵守。処方された薬剤を指示に従って服用すること。
④〘物〙 ひずみと応力の比で表される物質定数。弾性率の逆数。物体の変形のしやすさを表す。
〈引用:三省堂 大辞林(Weblio辞書より)〉
純粋な言葉の意味は①の「承諾」や「追従」であり、①の意味から派生して、企業が使う場合、医療現場で使う場合、物理学の中で使う場合など、それぞれの場面に適した概念と紐付けられて使われるようになったと思われます。
企業にとって「不祥事」になりかねない事柄
『日本の企業倫理: 企業倫理の研究と実践』を執筆された中村瑞穂氏は企業不祥事になりかねない事象として、以下の8つのものを挙げています。
①競争関係〔公正〕・・・カルテル、入札談合、取引先制限、市場分割、差別対価、差別取扱、不当廉売、知的財産権侵害、企業秘密侵害、贈収賄、不正割戻など
②消費者関係〔誠実〕・・・有害商品、欠陥商品、虚偽・誇大広告、悪徳商法など
③投資家関係〔公平〕・・・内部者取引、利益供与、損失保証、損失補填、作為的市場形成、相場操縦、粉飾決算など
④従業員関係〔尊厳〕・・・労働災害、職業病、メンタルヘルス障害、過労死、雇用差別、プライバシー侵害、セクシャル・ハラスメントなど
⑤地域社会関係〔企業市民〕・・・工場災害、環境汚染、産業廃棄物不法処理、不当工場閉鎖、計画倒産など
⑥政府関係〔厳正〕・・・脱税、贈収賄、不正政治献金、報告義務違反、虚偽報告、検査妨害、捜査妨害など
⑦国際関係〔協調〕・・・租税回避、ソーシャル・ダンピング、不正資金洗浄、産業スパイ、多国籍企業の問題行動〈贈収賄、劣悪労働条件、利益送還、政治介入、文化破壊〉など
⑧地球環境関係〔共生〕・・・環境汚染、自然破壊など
企業不祥事は、日本だけでなく世界中で多発しています。ネットやスマートフォンなどの情報デバイスが発展し、気軽に情報発信や情報交換が出来るようになったこととも無縁ではありません。
ソーシャルメディアの発達も伴って企業の不祥事・スキャンダルに対する消費者や消費者等の利害関係者の目は厳しくなっています。
それだけに、経営や事業活動において不法なことやあまりに信義に反することが行われれば、企業の信用やブランドは一瞬にして失われ、経営破綻に陥る恐れがあります。
ここに企業を違法経営から遵法経営へ向かわせるコンプライアンスの必要性が生じます。
企業が「コンプライアンス」として守るべきこと
企業が「コンプライアンス」という言葉を使う場合に守るべきことは下記の4つと言われています。
(1)「法規範」
会社法だけでなく民法・刑法・労働法、条例など、行政で決められたルールを遵守しましょう。
当然のことですが、これらに違反すると社会的に厳しく罰せられます。
(2)「社内規範」
社内で定められた規則や業務マニュアルなどのルールを遵守しましょう。
社内だけで適用されるルールだとしても、たとえば就業規則を守ることが引いては労働法などの法律を守ることにつながります。
(3)「倫理規範」
企業倫理とは、企業が消費者や取引先からの信頼に応えるために遵守する規範です。
経営理念や社訓などに表されます。
経営理念や社訓、クレドを意識して行動することが、ずるをしない社風をつくることにつながります。
世の中には法律だけでは解決できない問題も多くあるため、一般道徳で考えられている「するべきこと」や「してはならないこと」も含めて考えることが大切です。
(4)「社会貢献=CSR」
「企業の社会的責任(CSR=corporate social responsibility)」とも関連して考えられます。
企業は、その事業活動を続けていく中で顧客だけでなく、従業員や仕入先、消費者、株主、地域社会、自治体や行政など様々なステークホルダーとの関わりを持ちます。
CSRとは、ステークホルダーと良好な関係を築きながら、自主的に社会に貢献する責任を果たすということです。
事業を通じて社会をより良くしていくことはもちろん、事業をただ継続できれば良いと考えるのではなく、環境保護などの社会問題にも真摯に向き合っていくことが求められます。
近年、企業による不祥事が相次いでいることから、社会が企業を見る目は年々厳しさを増し、企業側が従業員に対して、これらの規範を違反させないシステムをきちんと作ることが求められてきています。
よって、コンプライアンスと聞くと「不祥事を起こさないように法令を遵守すること」という印象が強く出てきてしまいがちですが、社内でルール違反者を出さないようにと小さな世界だけで細かいルールを守ることを意識するのではなく、もっと大きな視点を持って社会貢献への意識も高めることができれば、より健全な経営ができるのではないでしょうか。
実際に会社が注意するべきこと
コンプライアンスを守る上で一番大切なことは、社員ひとりひとりが常にコンプライアンスを意識して、行動することです。
企業は頭ごなしにルールを課すのではなく、ひとりひとりへの意識付けを促すための対策をとるべきでしょう。
企業の中で法令遵守の仕組みづくりをする場合、コンプライアンス・オフィサーという責任者を選抜したり、コンプライアンス・オフィサーの下に複数の人が所属するコンプライアンス委員会という組織を設置したりします。
コンプライアンス・オフィサー、引いては最高遵法責任者のことを「CCO(chief compliance officer)」と呼んでいる会社もあります。
内部統制システムの構築を行う場合、コンプライアンスを遵守できるようなルールや業務プロセスを作成できるよう、彼らと連携することも大切です。
また、一般の従業員には組織体制を遵守するよう呼びかけるだけでなく、定期的に研修を行ったり、もっと身近に感じてもられるように人事評価の項目としてコンプライアンス遵守の内容を組み込むことも1つの手段になります。
実際に個人が注意するべきこと
普段から「悪いことやずるをしない」ということを心掛けましょう。
個人的にはちょっとした「ずる」だと思っていたことが積み重なって犯罪になってしまったり、会社の信用を失墜させることにつながりかねません。
たとえば、在庫品や備品を黙って持ち出し、個人的に利用することはちょっとした「ずる」の範疇だと考えていたとしても、度が過ぎれば企業側から横領罪や窃盗罪で訴えられることも考えられますし、本人に悪気がなかったとしても過度な割引を行って物を販売すると会社に損害を与えることと見なされ背任罪として罰せられる可能性もあります。
社内で怒られて終わるという話ではなく、前歴がついたり前科者になってしまうと、その後の人生に少なからず影響を与えることになってしまいます。
気が緩みそうになったときは、社訓を読み返したり、自分の業務が世の中の役に立っていることを改めて思い出してみてください。
また、知らなかったでは済まされない法律違反も多いため、社会人として少しでも法律について勉強しておきたいところです。
「コンプライアンス」と「モラル」
ここまで、コンプライアンス=法令遵守だけでなく、モラルの問題にも合わせて触れてきました。
コンプライアンスを遵守することとモラルの問題とはまた別だという考え方もありますが、企業は時に法令を守ることだけが正義とは限らない場合も多々あると思います。
何かトラブルに見舞われたとき、企業としては法令を遵守すればコンプライアンスは守れるが角が立ってしまうという局面では、顧客や社会全体からの信用を失わないために(法律遵守の下)モラルの方を優先した方が良いというときもあるでしょう。
企業が信用を守るためには、法律に違反していないかどうかだけを意識するのでなく、倫理的、道徳的な視点も含めて考えていくことが大切なのではないでしょうか。